松風 7

松風 第七回 

 赤字官民ファンドの真空地帯

               北野健治

 巷間では、日産のリストラの記事が紙面を賑わせている。また、パナソニックでも、同様の措置が話題になっている。両社の違いは、日産は赤字によるものに対し、パナソニックは黒字でありながらも、将来を見通しての対策の一環であるということ。

 一方で、国内の三大メガバンクは、三社合計の純利益が四兆円規模となり、過去最高益を更新した。

 これらの記事を目にしながら、思い出すのは東芝のこと。かつては日本を代表する企業の一つであった。が、度重なる不祥事と経営不振で、現在は、往年では考えられないほど企業規模は縮小され、東証の上場を目指している。

 つくづく企業は生き物だと思う。生き物である以上、健康状態は変わる。その健康状態を左右するのが、“経営陣”という脳なのだろう。

 先日、目を引く記事が新聞に載った。「官民ファンド 6割累積赤字 上位4ファンド 総額1637億円」(朝日新聞、二〇二五年五月一七日、朝刊)。 リード文によれば、「政府が検証対象とする全23ファンドの6割にあたる14が累積赤字で、特に業績の悪い4ファンドの累積赤字額は計1637億円だった。」という。

 「官民ファンドは国と民間が資金を出し合い、政府の成長戦略に沿った民間事業に投資して収益を上げるのが目的。」(同紙) つまり私たちの税金が投与され、事業は成り立っているということ。

 さらに記事は続く。「(会計)検査院は『計画の進捗によっては事務費の見直しなど経営の改善を図る必要がある』と指摘した。」(同紙、()内は筆者が補足)

 おいおい、まだ事業は継続させるということか。庶民の暮らしは厳しくなる一方で、国民の税金がつぎ込まれている赤字官民ファンドは、リストラの検討もなく存続させるということか。

 大企業なら、社会的影響を鑑み、日産でも然り、代表取締役が現状と対策についての弁明の記者会見を行う。だが、これらの官民ファンドは、代表者の名はおろか、釈明の弁さえ見当たらない。

 国が関与する事業だから、赤字ファンドの責任者の弁は必要ない、ということか。まるで野間宏の『真空地帯』のような話だ。

 『真空地帯』の主人公の陸軍兵士は、あるきっかけから戦争責任について考え始める。現場での責任を皮切りに、その責任の源を上位に遡及していく。そして責任の最終地点に到達して愕然とする。それは、「天皇」の名のもとにおいて、誰も責任を取らないという「真空地帯」の存在だ。

 この官民ファンドの話も、まるで「真空地帯」と同じこと。夏の参議院選挙を前に、今も減税の話題にばかりスポットが当たっている。だが、それ以外にも、俎上に載せるべき政策はある。

 2025年5月19日

               (つづく)

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